ウイスキーじゃないのに「ウイスキー」表示?ジャパニーズウイスキー3つの闇を暴く!

知識・雑学

ハイ!OKKAです。

今回はちょっとハードなお題を。
「ウイスキーの定義」の記事でも述べたように、実は日本には「ウイスキーの品質を守る」ための法律ってないんですね。

そのため、他の国ではありえないようなことが、日本では起こっているのです。
題して、「ジャパニーズウイスキー3つの闇」

どんな「闇」があるのか、見ていきましょう!

闇1 ウイスキーじゃないのに「ウイスキー」表示?

まずは、「スコッチウイスキーの定義」と、「日本のウイスキーの定義」を比べてみます。
(法律の条文をわかりやすく書き換えています。)

スコッチウイスキーの定義
①水、酵母、大麦麦芽(モルト)およびその他の穀物を原料とする。
②スコットランドの蒸溜所で、糖化、発酵、蒸溜を行う。
③アルコール度数94.8以下で蒸溜。
④容量700リットル以下のオーク樽で熟成させる。
⑤スコットランドの保税倉庫で最低3年間熟成させる。
⑥水と無味カラメル着色料以外の添加物を加えない。
⑦アルコール度数40%以上で瓶詰めする。

日本のウイスキーの定義
①穀物および水を原料とする。
②発芽させた穀物に含まれる酵素によって糖化させる。
③アルコール度数95%未満で蒸溜。
④上記の酒類が総量の10%未満にならない範囲で、アルコール、スピリッツ、香味料、色素を加えることができる。(ただし、白樺の炭で濾過したものは除く)
⑤蒸溜の際、ほかの物品の成分を浸出させたものは除く。

こうして見ると、かなり異なっていることがわかると思います。特に日本のウイスキーの定義の④以降には、「樽熟成」「熟成年数」「アルコール度数」についての決まりがないし、何より「日本国内」という言葉がどこにもありません。スコッチでは認められていない添加物も認められています

ここで生まれた1つ目の「闇」が、「日本のウイスキーには、『アルコール』『スピリッツ』が添加されているものがかなりの数存在する」ということです。

ここで言う「アルコール」「スピリッツ」とは、主にサトウキビの搾り汁(廃糖蜜)を発酵させ、蒸溜して作ったものを指します。

廃糖蜜
https://www.dososhin.com/より引用

当然ながら、こうしたものが添加されてしまうと、スコットランドのみならず、他の多くの国でも「ウイスキー」を名乗れなくなります。

でも、そういった「他の国ではウイスキーと呼べない酒」を堂々と「ウイスキー」と表示して販売しても、法律には何も違反していない、というのが日本なんですね。
しかも、それを「上記の酒類が総量の10%未満にならない範囲で加えることができる」とあります。

その限界を攻めたのが、有名なイオンの「トップバリュウイスキー」。(720ml 約600円)

「アルコール度数37% モルト・グレーン10%以上・スピリッツ90%未満」と表示があります。
このウイスキーは、通常720mlですので、この中に入っている「本来のウイスキー」は10%の「72ml」だけということになります。
(細かく言うと、アルコール度数が40%ないと、通常ウイスキーと名乗れないので、もっと少なくなりますね。)

スピリッツ添加のウイスキーは他にもいろいろあります。

「スピリッツ添加」ウイスキーの例
キングウイスキー凜 セレクト (宝酒造) 
アルコール度数37% 原材料 モルト・グレーン・ブレンド用アルコール
700ml 約800円(税込み)
香薫 (オエノングループ)
アルコール度数37% 原材料 モルト・グレーン・スピリッツ
600ml 約650円(税込み)
隼天(はやて) (南アルプスワイン&ビバレッジ)※ファミマ限定商品
700ml 約1100円(税込み)
アルコール度数40% 原材料 モルト・スピリッツ
蜂角峰(はちくま) (南アルプスワイン&ビバレッジ)
700ml 約1000円(税込み)
オークマスター森の風薫る (キリン)
アルコール度数40% 原材料 モルト・グレーン・スピリッツ
640ml 約1000円(税込み)
オークマスター樽薫る (キリン)
アルコール度数40% 原材料 モルト・グレーン・スピリッツ
640ml 約1000円(税込み)

探せばまだまだありますが…。
こうしたウイスキーが「全部ダメ」ということではありません。一応は法律を守っているし、「味よりも安さ」を求める人も一定数いるでしょうから、「わかっていて買う」分にはいいと思います。中にはハイボールにするとそこそこ飲めるのもありますので。

でも、個人的にはやはりこうしたお酒を「ウイスキー」と呼ぶのは抵抗がありますね。
やはりアルコールの刺激がやたら強かったり、ウイスキーとしての香味がほとんど感じられないものが多いので…。
せめて他の国のように「スピリッツ添加」はなしにしてくれるといいのですが…。

ちなみに、なぜ日本ではスピリッツ添加が認められているかというと、「戦前から戦後にかけては、国内で十分なウイスキーの生産ができなかったから」といわれています。
原酒が少なくても、「ウイスキー」と名乗れるように、こうした基準ができたらしいんですね。
(実は、昔はもっと緩く、1989年まではウイスキー『0%』でもウイスキーを名乗れた(!)ということです。さすがにこれはちょっとヒドい…。)
でも、もうそろそろ見直す時代になっているんじゃないかと思います。

闇2 国産じゃなくても「ジャパニーズウイスキー」?

前項でも少し触れましたが、日本の法律上は、「ウイスキーは日本国内で作らなくてもOK」となっています。
実際、ほとんどのメーカーは「海外から原酒を輸入して、国内原酒にブレンド」しています。

表記に「シングルモルト」または「国内製造」とあれば、100%国内生産と言えますが、それ以外の表記なら、ほぼ「海外原酒をブレンドしている」といっていいと思います。

これは、法律で決まっていないということもありますが、「国内原酒の不足」も大きな要因です。
バブル崩壊以降の「ウイスキー冬の時代」には、ウイスキーの売り上げが低迷し、どのメーカーもウイスキーの減産を余儀なくされました。
そこにきて、2008年以降のウイスキーブーム到来。売れるようになったのはいいんですが、減産した結果、国内原酒が圧倒的に足りなくなり、海外原酒の輸入に頼るようになってしまったのです。

「原酒も足りないし、法律上OKならいいんじゃない?」と思われる人もいると思いますが、ここで2つ目の「闇
それは「すべて海外原酒を使っているのに、『ジャパニーズウイスキー』として販売するメーカーが出てきたこと」です。

有名なのが、鳥取県の「松井酒造」。(ちなみに、京都にも日本酒を造ってる「松井酒造」がありますが、無関係です。)
明治43年(1910年)創業。元々は日本酒や焼酎製造を行う酒蔵だったようです。

その松井酒造が、2015年にウイスキー製造免許を取得した後、翌年に「ピュアモルト倉吉」を販売しました。

当時の「倉吉」(今はデザインがちょっとだけ変わっています)
くりりんのウイスキー置場 (blog.jp)より引用

ここで勘のいい人はわかりますよね。「免許を取得してたった1年でどうしてウイスキーを販売できるのか」と。

お察しの通り、当時、松井酒造は蒸溜所を持っておらず、この「倉吉」の中身はすべて輸入したスコッチウイスキーだったわけです。
それにも関わらず、ラベルには「倉吉蒸溜所」「Made in Japan」と書かれていました。しかもラベルデザインが「山崎」と酷似

上の「倉吉」と比べてみてね

これが偽称だということで、ウイスキーファンを中心にバッシングが起きました。
さらにそのバッシングに答える形で、代表者と思われる人物(署名なし)が自社のHPにコメントを出したのですが…。
その内容はこんな感じ。(すでにHPからは削除されていますが…一部抜粋します。)

「日本で全て製造するから良いものではなく、よい原酒はスコットランドにたくさんあります。我々もスコットランドの原酒を使う事も大事だと思います。」
「日本の方々はウイスキーについてうんちくを言われる方がたくさんいますが、メーカーは大変迷惑なこともあります。」
「大手メーカーさんも様々な海外の原酒も使っていると思います。」


まあ、法律には違反してないし、確かにそうなんでしょうが、えらい正直に言っちゃいましたね…。
問題は「海外原酒しか使ってないのに、Made in Japanと表記があること」だったのですが、そこには触れず、自社の正当性をアピールしてしまったのです。
当然のことながら、この件はさらに炎上してしまいます…。

松井酒造側がもうちょっと誠実な対応をするか、そもそも最初から「Made in Japan」などと書かずに「海外原酒を独自にブレンドして、ボトリングしたものです」と言っていればよかったんですが、そうはなりませんでした。
でも、個人的には「悪いのは日本の法律」だと思います。法律上、日本でボトリング「だけ」をしても、「ジャパニーズウイスキー」を名乗ることができますからね。
もちろん、法を守れば何をしてもいいというわけではありませんが…。

その後、松井酒造は2019年ごろから自社でもウイスキーの製造を開始。「シングルモルト松井」などもリリースし、がんばっているようです。

倉吉蒸溜所

OKKAはまだ松井酒造のウイスキーを飲んだことがないので、これ以上言うのはやめておきます。(そのうち飲んでみたい。)
最近は海外からも一定の評価は得ているようだし、悪いイメージを払拭するためにも、誠実にウイスキー造りに取り組んでほしいなあと思います!
(でも、熟成期間が1年半のものを「シングルモルト」として販売するのは正直ちょっと…と思いますが…。それ「ニューボーン」でしょ…。)

闇3 グレーンの方が多いのに、「モルト グレーン」の順で表記?

最後は「ウイスキーの原材料表記」に関するもの。

通常、食品表示法によると、「原材料の量の多い順で表示」と決められています。
そう思って、ブレンデッドウイスキーの表示を見ると、ほとんどが
「原材料 モルト グレーン」
となっていますので、「なるほど、モルトの方が多く使われているんだな」と思ったら…それは間違いなのです!

これが3つ目の「闇」です。
「ウイスキーの原材料表示は、量の多い順ではない」
さらに
「穀類から作ったアルコールは、添加していても表示義務はない」
ということです!

ウイスキーの原材料表記については、法律上は次のようになっています。

(ウイスキーの表示に関する公正競争規約及び施行規則)
以下、施行規則該当箇所。
(1) 原材料名
ウイスキーの特長を決定する要素に 基づき、「原材料名」という文字の後に、 次に掲げる原材料名を順次表示するも のとする。
・麦芽又はモルト
・穀類又はグレーン (「穀類」又は「グ レーン」の括弧書として類名を記載し又は穀類の種類名をそのまま表示しても差し支えないものとする。)
・ブレンド用アルコール (穀類を原料とするものを除き、これらを当該ウイスキーにブレンドした場合に表示するものとする。)
・スピリッツ (穀類を原料とするものを除き、これらを当該ウイスキーにブレンドした場合に表示するものとする。)
・シェリー酒類 (容量比で2.5パーセントを超えて使用した場合に、表示する。)

「順次表記」なので、「モルト」「グレーン」の順で表記しています、ということなんですね。
なぜこうなっているのかについては、調べたけどわかりませんでした…。
とりあえず「慣習」ということなのだと思います。

ちなみに、ブレンデッドウイスキーの「モルトとグレーンの比率」は一般的に「モルト20~40%」「グレーン60~80%」と言われています。(製品によっては、もっとモルト比率の高いものもあります。)
ということは、多くのブレンデッドウイスキーにおいては、「グレーン モルト」の順で表記するのが正しいということになります。
しかし、OKKAの手持ちのブレンデッドを見たところ、「グレーン モルト」表記になっているのは「ジェムソン」とキリンの「陸」だけでした。

昨今、原材料表記を気にする人が増えてきていると思うので、このままでいいのでしょうか?

ネット上でも
「糖化の時にもモルトを使うので、結果的にモルトの方が多くなるから『モルト』が先」
「スコッチのブレンデッドはモルト比率の方が高いので『モルト』が先」

といった、「表示が先だから量が多い」と思って、間違った意見を述べている人を見かけました。

さらに問題なのが「スピリッツやアルコールについては、穀類を原料にしていれば表示しなくてよい」とされていることです。

極端に言うと、ウイスキーに麦焼酎が混ぜられていても、表示しなくていいってことになります…。さすがにそんなメーカーはないと信じたいですが…。

結局「法律が悪い」んですが、なぜ日本の法律はこんなにもガバガバなんでしょうか。
おそらく「酒文化」というものを認めていないんだと思います。「品質」はどうでもよくて、「酒税」さえ取れればいい…そんな風に見えてしまいます。

戦前、戦後の混乱期はともかく、現代においてこれほどガバガバなのを放置しておくのは、かなり問題があると言わざるをえませんね。
なんとか改善してほしいものです。

これからの「ジャパニーズウイスキー」

こうした現状から、日本洋酒酒造組合は「日本のウイスキー」の価値を守るために、「ジャパニーズウイスキー」の定義を定めました。2022年4月1日から施行されています。

ジャパニーズウイスキーの定義
①原材料は麦芽を必ず使用し、日本国内で採取された水を使用すること。
②国内の蒸留所で蒸留すること。
③原酒を700リットル以下の木樽に詰め、日本国内で3年以上貯蔵すること。
④日本国内で瓶詰めすること。

「法律」ではないので、守る義務はありませんが、「日本洋酒酒造組合」には「アサヒ(ニッカ)」「サントリー」「キリン」はもちろん、「ガイアフロー」「笹の川酒造」「本坊酒造」「若鶴酒造」などなど、現在の日本のほとんどの蒸溜所が入っているので(もちろん「松井酒造」も!)かなりの強制力はあると思います。

ただ、ここにも問題があって、この定義では「シングルモルト」は「ジャパニーズウイスキー」を名乗れるのですが、「ブレンデッドウイスキー」で「ジャパニーズウイスキー」を名乗るのはかなりハードルが高いということです。
現在、グレーンウイスキーを使用したブレンデッドウイスキーで、「ジャパニーズウイスキー」とされているのは、
サントリー「オールド」「スペシャルリザーブ」「ローヤル」「響」「季(とき)」
キリン「シングルブレンデッドウイスキー富士」

の6種類のみ。

これは、国内に「グレーンウイスキーの生産所」がほとんどないことが原因。
国内のグレーンウイスキーの大規模工場は
サントリー「知多蒸溜所」「白州蒸溜所」
ニッカ「宮城峡蒸溜所」
キリン「富士御殿場蒸溜所」

の4か所しかありません。(2022年現在)

※小規模のものなら、茨城県の「木内酒造」も自社の「額田蒸溜所」でグレーンウイスキーを造っています。

したがって、他のメーカーがブレンデッドウイスキーを造ろうとしたら、どうしても海外原酒を使わざるを得なくなるということなんですね。

これは、モルトウイスキーを作るには「単式蒸溜所(ポットスチル)」が数機あればできるのに対して、グレーンウイスキーを大量に造るためには大規模な「連続式蒸留機」を建設する必要があるからです。
これにはかなり多くの費用と広い土地が必要ですので、なかなか大変なのです。

巨大な「知多蒸溜所」 suntory.co.jpより引用

個人的には、
「サントリー、ニッカ、キリンが、他の蒸溜所にグレーンウイスキーを販売する」
「国内にグレーンウイスキーの工場を建てる」

のどちらか(できればどちらも)を行う必要があるんじゃないかなと思います。

シングルモルトが増えたとはいえ、世界で流通するウイスキーの多くはブレンデッド。
それなのに、「世界5大ウイスキー」にも数えられる日本で、「国産ブレンデッドウイスキー」が6種類しか造られていないのはどうかと思うのです。ここはぜひ、メーカーの垣根を越えて、各社協力してくれないかなあ…。

と思っていたら、「北海道にグレーンウイスキーの工場建設の記事」を見つけました!
北海道にグレーンウイスキー蒸留所誕生!!道産コーンウイスキープロジェクト(北海道立総合研究機構) (jpwhisky.net)
2021年に計画スタート、2025年の販売を目指すということです。
どうも、ブレンデッド用ではなく、「北海道産コーンウイスキー」を造るということのようですが…。

さらに、木内酒造が2022年8月に「国産ブレンデッドウイスキー 日の丸ウイスキー ブレンデッド ニューボーン 2022」を発売!7本目の「ジャパニーズブレンデッド」ですね!(ただし限定300本。もう抽選は終わってます…。)

木内酒造 (kodawari.cc)より引用

名前の通り、モルト原酒は3年未満の「ニューボーン」ですが、「東京ウイスキー&スピリッツコンペティション2022(TWSC)」で金賞を受賞したそうです。

これをきっかけに、日本でもどんどんグレーンウイスキーが造られ、そのうち多くの「国産ブレンデッドウイスキー」が造られないかなあ…なんて妄想しちゃいますよね。

いろいろ「闇」はありますが、日本のウイスキーがこれからも発展していくことを願ってます!

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